職場に行き、すぐに彼女と話をしました。彼女が真剣に悩んでいること。そしてもう憔悴して進学を諦めていること。そういったことを他の先生とも申し合わせをしてどうすべきかを考えていこうと提案しました。
彼女は最初のうちは何を言っても頭を振るばかりで、私の話を聴くことができないようでした。どうしようと私も困っていると、教授の言葉が私の頭によぎりました。
「君が求人を見つけて働いていることの幸せ、そういったことを彼女に伝えてみたら。そして自分が大学に進学して楽しかったことを彼女に伝えることだ」
私は必死に話をしました。今まで自分が勉強してきたこと。それが無駄にならなかったから今あなたの前で話ができていること。大学で学んだこと。そして友人たちとの付き合いがどれほど楽しかったか。何のために頑張るのか。誰のために頑張るのか。この人生はあなたのものだということを伝えました。
すると彼女の口から言葉が出ました。進学はする。そして進学して病床の父を喜ばしてあげたい。母がこれから奨学金などの手続きをしてもらう。
先生がいてくれて本当によかった。先生がいなかったら私は本当に勉強をやめていたのかもしれない。ありがとうございますと頭を下げて職員室を出て行く彼女を見て私は本当に力が抜けるほど安堵しました。
私がこの仕事で本当に学んだこと。それは打算をすることではなく、本気で人の懐に入って行くことが仕事には必要になることがあるということです。あの後私は教員免許を取得し、ある高校の教師に転職しました。学校という難しい環境を、あの生徒がいなければ選択することは無かったでしょう。しかし、本気で人とぶつかることを彼女は教えてくれたのです。それがあるから、私は今、転職して幸せだと思えています。